NOⅤE / 守るべきもの July 31st, 2019

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NOⅤE / 守るべきもの 

「ファッションは自己を表現しながら自信を与えるだけではなく、見る人に楽しみや興味を与えなくてはならない」 by Hicham Benmbarek (Designer)

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約35年前の1985年、プラザ合意を発端としてバブル景気が始まった。

1989年12月29日ついに日経平均が3万8915円に達し、史上最高値をつけた。

1989年は日本に初の消費税(3%)が導入された年だったが当時はバブル景気の真っ只中、勢いは収まるどころか上昇を続けていた。

消費税の影響が市場景気に大きな影響を与えることも今ほどなかった。

 

1990年 大蔵省(現財務省)が不動産(土地)価格高騰と不動産投機抑制の為の総量規制を各金融機関に通達。これをきっかけにバブル経済は終焉に向かい始めた。

 

その後、イトマン事件、金融ビッグバン、消費税5%引き上げ、アジア通貨危機、山一証券廃業、様々な経済的ダメージが日本を襲った。

 

これらを起因とした株価定価の報道は、まるで日本の経済にひびが入り景気後退を世に伝える「警鐘」のように聞こえた。

 

そして2000年代に突入し後半に入った2008年、世界経済を奈落の底に突き落とし、世界規模の金融経済危機を招いた「リーマン・ショック」が発生した。

 

米国発端のこの危機で世界的な信用収縮と株価暴落を招いた。米国は財政出動と金融緩和でこの危機を乗り切ろうとしたが、我が日本は対応を誤り長期間に渡り円高が続く結果となった。

 

一時、1ドル87円台まで円高が進行、日経平均は10月28日取引時間中に一時6994円まで下落、その翌年の3月10日終値でバブル崩壊後史上最安値の7054円を記録した。

 

これは今日現在の価格 21709円(13:43)の実に3分の1である。

今考えるととてつもなく恐ろしい株価である。

 

 

 

リーマン・ショックが発生した同2008年、日本でファッション革命が発生する。

 

08年「H&M 原宿」

 

09年「フォーエバー21原宿」

のオープンである。

 

この海外発ファストファッションが現在に至るまでのアパレル不況時代への幕開けでもある。

 

 

日本中を席巻した現在主流になるファストファッション企業が日本中に台頭する中、アパレル各社はそれに対抗する為に目先の売り上げを作る方法として、生産拠点を中国や東南アジアに移し大量生産でコストカットを図った。

 

それまで国内で製作していたメーカーもブランドも低価格化を実現する為に東南アジアに活路を見出そうとした。

 

日本ファッション界において多大なる影響と功績を残したブランド(デザイナー)でさえ、このファストファッションに対抗する為に製造拠点の変更を強いられた(選択した)

 

各企業専属の才能あるデザイナーや職人達を筆頭に、自社にしか作れない製法や魅力的かつオリジナリティーに溢れた製品を世に送り出していた一部のブランドやメーカーでさえ、このファストファッション起因による価格競争、、、いや「価格戦争」に足を踏み入れるしか生き残るすべはなかったのかもしれない。

 

リーマン・ショック直後もあり、経済的不安を抱えた国民、若者は我先へと旗艦店に向かった。

 

この両雄以外の企業の製品でも、EC(通販サイト)が確立されていない企業の製品は個人マーケットに通じ日本中に広まったのだ。

 

そして、この戦争は消費者の購買意欲を一層掻き立て、ポリシーやヒロソフィーを持った有名ブランドでさえ、大切な何かを犠牲にしていった。

 

この現象が招いた日本におけるファッション業界の衰退の要因として、「失われた財産」が挙げられる。

先にも話したように、各企業専属の才能あるデザイナーや職人達の活躍の場が極端に減少してしまった。

 

個性ある美しい洋服を作りだすデザイナーや職人たちが、時代の変化と共に企業の「コスト」「お荷物」になっていった。

 

薄利多売を達成させなければ会社として成り立たない状況に踏み入れた企業は「売れる製品」の製造に力を入れた。

 

それは常にトレンドだけを追い求めることを指す。

 

世のトレンド=多数派であるが故、強力なファストファッション企業が打ち出すデザインが人々の流行になった。

それらのデザインを各企業はコピーし、自社のタグをつけて発表した。

 

海外で学んだデザイナーや専門知識を持った職人の活躍の場は減り、「それら」の製品を作る部署に飛ばされた。

 

自分が何のために存在しているのか? 自分が学んできたことは何だったのか?

思う存分の力を発揮できないデザイナーや職人たちの苦しみや悲しみ、苛立ちは想像を絶したはずだろう。

 

自分の存在価値を見いだせないデザイナー職人達の多くは、企業を退社し自社ブランドを起ち上げて行った。

 

成功した者もいれば、その逆も。日本ファッションにおける商習慣に嫌気がさし海外に活躍の場を移した者、

ファッションという職業が嫌いになり封印した者、、、 多くの有能な人々が消えて(活躍の場が失われた)しまった。

 

 

 

BENHERATを日本で販売することが正式に決定して間もなく、私は数回に渡りフィレンツェに向かった。

 

フィレンツェではデザイナーと共に生活をした。

製品の勉強だけではなくフィレンツェという街、そこに住む人々の特徴や生活習慣を徹底的に調査した。

 

毎日を工場、店、家、工場、店、家、このルーティンをただひたすらに繰り返し、空き時間には美術館や歴史建造物を見て回ったり、スタッフと食事やカフェをしたり、その他現地で知り合った友人との時間に割いた。

 

私が学んだのは製品についての知識は当然だが、何よりも勉強になったのはデザイナーがどのような過程を経て製品を販売するまでに至るか? それを身をもって体感できたことが大きい。

 

物作りへの姿勢や責任、自分のこだわりとニーズとの隔たり修正、ブランドが提唱する品質維持の困難さとその解決法などである。

数え上げればキリがないほどであった。

 

しかし、それらの多くの問題はチームメイトや革職人との喧嘩に近い会議や他ブランドのデザイナー仲間からのアドバイスなどで解決していくことがほとんどであった。

 

例えば、、、 当時(5年前)プロトタイプとして作られていたレザージャケットは、その疑似的にサイズ変更を可能にするため特殊な構造を用いた。

 

しかしそれが多くの技術的な問題を発生させたため製品化に至ることが叶わなかった。しかしデザイナーのこだわりとポリシーが詰まったそのジャケットは約2年間に渡る改良と修正の末、約3年前に市場(フィレンツェ旗艦店)に初投入され、現地の人々から大きな評価と圧倒的なセールスを記録したのだ。

 

日本では「沢山売れているブランドだから素晴らしい」「カッコいい」「凄い」感が圧倒的に強く、そこに品質やデザインした人間のこだわりやストーリーを知ろうとする人は皆無である。

 

この日本では

素晴らしい製品が売れる のではなく 売れるから素晴らしい と考える。

 

誰がどのようなコンセプトでデザインしたのか? など、表面には見えない面白みを一切知ろうとしない傾向が強い。

 

「シャネル」や「フェンディ」は知っているが「カール ラガーフェルド」は知らない。

「パナソニック」は知っているが「松下幸之助」は知らない。 そんなとこだろうか。

 

対してイタリアではその全く逆である。ファッションに対しての造詣が異様なほど深いのである。

専門家や有識者でもない一般のお客様が来店してこう聞く

 

お客様「これを作ったのは誰かしら?」

スタッフ「この人です」と写真を見せる

お客様「この人は職人?デザイナー?」

スタッフ「両方です。」

お客様「そうなのね?この人はキャリアどの程度なの?レディース出身?メンズ出身?」

・・・・

こんな会話が延々と続く。

典型的なイタリア人である。 しかし私の知る限り(BENHERATイタリア国内の全店)

このような会話が頻繁に飛び交っているのだ。

 

モノを買うならば専門店で。の傾向がとても強い。

ピザが食べたければ美味しいピッツェリアへ。美味しいTボーンステーキが食べたければビステッカへ行く。

ピザで有名なお店でビステッカを注文することはほとんどないし、またその逆も。

 

つまり、デザイナーでもなく職人でもない、単純に革問屋から仕入れ、店頭で販売する革店に対しての評価や査定も同様に厳しく行われているということである。

 

私はそんなイタリアの習慣?風習?環境? を肌で感じることで確信に変わった。

ここはデザイナーや職人にとって素晴らしい環境なのだと。

 

「モノを買う責任を知っているお客様」と「それに応えることができるデザイナーや職人」

このバランスが絶妙に良い。

 

私は失われていく日本人の素晴らしいデザイナーや職人に対してもっと敬意を持つべきと考えている。

仮に自分の趣味に合わない種のデザインでも、この厳しい日本のファッション業界で活動している

デザイナーや職人を大切にしてほしいと思うのだ。

 

伝統技術 情熱 創造性 個性 それらを持ち合わせる人々をこれ以上減らしてはいけない。

 

 

今回ファッションとは何か?をテーマに書いたが、辿り着くところは

本来、ファッションとは、作り手の情熱と愛、そして感動と興奮によって誕生している物。

少なくとも私はそう信じ、またそうあってほしいと切に願う。

 

ファッションには人々を楽しませ興奮させ、そして幸せにする力を持っているのだから…

 

 

「ファッションは自己を表現しながら自信を与えるだけではなく、見る人に楽しみや興味を与えなくてはならない」

Hicham Benmbarek (Designer)

 

 

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